子供の情景

子供の情景・その1  可哀そうな子供

会社に行く朝のこと。西荻窪の駅まであと数十メートルのところで、私の前を歩く女の子の大きな声が聞こえてきた。 “お願いだから、私も連れてって” と先を行く母親に、叫けんでいた。母親は振り向きもせず、さっさと歩いてゆく。やがて子供は追いついて、母親の前に立ちふさがりながら、一層はっきりした声で、周りに助けを求めるように叫ぶ。4,5歳くらいの女の子だ。

やがて、改札口に近づいた。はらはらしながら見ていると、その母親は後ろも振りかえらずにさっさと改札口を通ってしまう。2,3人他の人がはいってから、その子は必死に改札を通った。短いエスカレーターをすでに降りた母親を後から必死に追いかける女の子の姿がみえた。相変わらず大きな声で泣き叫びながらーー。

事情があって子供を家に残して出かけなければならないのなら、立ち止まって、子供の姿勢にまでしゃがみ、何かを言い聞かせる筈だ。

この日はずっとこの女子の泣き声が耳に響いた。翌朝にはその時の情景が目に浮かんで目が覚めた。

子供の情景・その2 同じく泣いていても

「その1」で述べたような事があった翌日の会社から家路に着く時の事。寒い雨が降って風も強く、駅から暫くは高架線の下の道をあるき、途中から雨の中を傘をさして歩いてゆくと遠くからだが、“いやだー、厭だ”という女の子の大きな泣き声が聞こえてきた。やがて広い道にくると、傘を持ちながらやっと歩いている親子の姿が暗闇にぼんやりと見えてきた。

昨日の事があったので、一瞬、さてはまた、子供をいじめる親がいたのかと思った。しかし、泣き声の調子が、何か違う。甘えながら泣いているようにも聞こえた。

やがて、私は追いついたので、ちょっと後ろを振り返えると、子供は泣くのをやめて、こちらを向いている。傘をやっと持って、、、、 私が思わず “お嬢ちゃん、傘を持って、寒くて大変ね! でも頑張ってね!”と声をかけた。母親は愛おしそうに娘さんを見ている。余計な事と思いながらも、母親に、“大変だけれど、小さい子供のうちに我慢するのを教えるのはいいことですね”と云うと、母親 “そうなんです、それでこうして、、、”と子供を見ながらニコッとした顔で答えてきた。

ほのぼのとした気持ちで家路に就くことができた。

子供の情景・その3 ちょっとした母子の姿   (再掲ですが)

 我が家から駅までの途中のガード下がきれいに整備され,小さい商店群が並んだ。大規模なスーパーと違って、お店のおばさんと、お客とのちょっとほんわかした会話が、そばで聞いていても楽しい。
母親に手を引かれながら、やっと歩けるくらいの小さな女の子が、やや大きな買い物袋を地面すれすれになりながら片手に持って歩いていた。とても可愛らしく感じたので、すれ違いながら思わず、

一生懸命に重い袋を持って偉いですね!と声をかけた。 母親 自分の好きなアイスクリームが入っているんです と。 私が子供の顔を見ながら あ、それでね!と言うと子供は、ニコットとこちらをみる。

通り過ぎて、ちょっと後ろを振り返ったら、子供が手を振ってバイバイをしていた。これだけの事だったが、きっと、あんなふうに育てられる子供は、いい大人になるのだろうなと、今でもその親子の姿を思い浮かべる。散歩道

子供の情景・その4 小石を動かす後ろ姿

家路につく途中の事。母親に後ろ手を引かれながら前を歩く小さな子供に気が付いた。子供が急に道端に寄りながら、左足で何かを動かそうとし始めた。時々倒れそうになると、母親が子供の手をしっかり持って子供が倒れないように注意しているのが分かる。

どうやら、小さな石を道端に寄せようとしているらしい。子供は歩くのがやっとの2歳ちょっと位の年齢だろうか。しかし母親は子供の手を旨く支えながらも決して止めさせようとはしない。

いい母親だな!と思いながら通り過ぎた。すると、その子供の可愛らしい声が聞こえたように思ったので後ろを振り返えると、そこには母親を見上げている子供の後ろ姿があった。道端まで石を旨く運んだ子供を母親が褒めたらしい。嬉しそうな子供の顔を想像した。

あの子はきっと何時までも子供の好奇心を失わない幸せな大人になるのだろうなと、心わくわくしながら、家路についた。散歩道