イタリアで会った山男の想い出   ランダム・トーク:散歩道

イタリアはクレモナ、シュトラスバリュース等のヴァイオリンの名器を生んだことで有名なクレモナの村を訪れた時のこと。帰りにバスに乗って近くの小高い山の民宿風のホテルに一泊した事がある。
   臨時らしいこの地区の山男風のガイドさんが案内をしてくれた。一泊予定のホテルに着くと、急に雨が降ってきた。背の高い男のガイドさんは、宿の外にあった大きなピーチパラソルを取り外して、”これがいいや”とか、おどけた身振りをしながら、私と家内のほか数人をその大きな”傘”にいれて、宿の玄関まで案内してくれた。
夕食を済ませると、車で数分山を登れば頂上近くの山小屋がある。そこの夜景は素晴らしいから、是非ぜひ案内したいとガイドさんが勧めにきた。臆病な家内を励まし、せっかく来たのだからと山小屋まで案内してもらった。山小屋には、ほかの数人の旅行者が暖炉にあたっていた。夜景もさることながら、雰囲気がなんともいいし、素晴らしい景色を見せたいという仕事抜きの ”山男”の気持ちが嬉しかった

翌日は、もう一つ別の山に案内して貰うことになっていた。朝起きたら、まっさきに山男ガイドさんに昨夜の景色のお礼と、次のコースの様子を聞こうと思っていた。ところが、ガイドさん、大きな体を折り曲げてうつむき加減にしょんぼりしている。みんなの前で、”今日で私は先に失礼させていただきたい”という。

大切な叔母が危篤との連絡があったので、急いで駆けつけたい』と泣き崩れんばかりの様子であった。時におどけた身ぶり、時に山登りの感激を夢中にしゃべる姿にすっかりほれ込んでいた私たちには、いまでも心に残る悲しい姿であった。 散歩道(2008年10月12日)