トの巻  古池や蛙飛び込む水の音

1.古池や蛙飛び込む水の音
これは殆どの日本人が知っている芭蕉の俳句であるが、騒音の洪水の中で生活する現代の我々は、この俳句から聞こえてくる筈の音を聞くことは出来ない。

ごくたまに地方に旅行した時に偶然夕方に遠くのお寺から“ぼおーーーんん”と聞こえてくる鐘の音。特別に静かな部屋で琴の音楽を聴き、曲の終わりに“しーーんん”という静寂があたりの空気に広がるのを感じるとき。雨が上がった後に、木から落ちるしずくが水がめに落ちて、“ぼよよーんんん”と響く音。

めったにこんな経験を持てなくなってしまった現代だが、たった一度でもそんな経験を持った人は、何時までもその時の心に沁みる何かを忘れないのではなかろうか。
そんな事を思い起こしながら、“古池や“を静かに読むと、古池から静かに広がる”静寂の音”が聞こえてくる。

楽譜には大抵は何処かに休止符がある。休止符は勿論休むと言う意味であるが、優れた音楽家ほど、その意味を深く考える。芭蕉の俳句から、そんなことを連想してしまう。

さしずめ、「作曲:芭蕉。演奏:蛙さん。演奏会場:古池。休止譜:空間に漂う余韻」と言うところでしょうか
         金澤磐夫 [2004/03/06,13:57:37] No.102 [2004/07/11,15:50:15] No.129